メタバースを活用した就業・社会参加支援シンポジウム
~メタバースでつなげる・つながる新たな世界~
イベント開催報告

2024年2月9日

一般財団法人機械システム振興協会と一般社団法人ソフトウェア協会が共催し、2023年11月30日(木)、日比谷国際ビルコンファレンススクエアにて、メタバースを活用した就業・社会参加支援シンポジウムを開催しました。当日は、ハイブリッドで実施し、87名(企業・団体数60社)(現地参加: 30名(企業・団体数16社)、オンライン: 57名(企業・団体数48社))の皆さまにご参加・ご聴講いただきました。

事後アンケート結果(回答数:57名)

-満足度:87.7%が満足と回答(うち非常に満足45.6%)
-主なコメント

  • 研究者、当事者(支援者)、開発者のそれぞれの講演が聞けたこと、また、パネルディスカッションでは現状を踏まえた議論が聞けたことが貴重な経験になった。
  • 基調講演を通じてメタバースや引きこもりの現状を知れたこと、そしてその内容を踏まえたパネルディスカッションにより見識を深めることができた。
  • これまで、Webアクセシビリティ等を検討してきたが、メタバースにおけるアクセシビリティを考えるきっかけとなった。
  • メタバースの可能性を広げる視点を知れたことと、生成AIが社会にすごく浸透していて新たな社会に必要になってきている状況を感じられた。
  • 環境構築と受け入れ体制の整備が必要だと感じた。
  • もう少し具体的な内容が聞けると思ったが、まだ途中経過ということで今後の発展を期待している。

イベント概要

共催 一般財団法人機械システム振興協会、一般社団法人ソフトウェア協会
後援 経済産業省 関東経済産業局、一般財団法人全国地域情報化推進協会、一般財団法人最先端表現技術利用推進協会、一般社団法人日本支援技術協会
開催日時 2023年11月30日(木) 14:00-16:00
開催会場 ハイブリッド開催
現地会場:日比谷国際ビルコンファレンススクエア 8F
(東京都千代田区内幸町2丁目2-3 日比谷国際ビル8階)
オンライン(ZOOMウェビナー)
参加者数 87名(企業・団体数60社)
(現地参加: 30名(企業・団体数16社)、オンライン: 57名(企業・団体数48社))

プログラム

開会挨拶

一般財団法人機械システム振興協会 専務理事の相澤 徹より、「メタバース技術が持っている可能性と引きこもり問題の重要性に鑑み、関係者の皆さまと広く議論を深めていきたいと思い、今回のシンポジウムをSAJと共催で開催するはこびとなった。今回は専門家の皆さまにお集まりいただいているので、突っ込んだ議論をぜひお聴きいただきたい。今年度組成したイノベーション戦略策定事業については、来年3月には報告書にまとめる予定であり、次年度以降に次のステップに進む計画も検討されているということで、将来に期待するところが非常に大き いものがある」との挨拶がおこなわれました。

基調講演A「メタバース & AI:コミュニケーションの未来」

大阪大学大学院 工学研究科 環境エネルギー工学専攻 准教授 福田 知弘 氏より、現在、利用・研究・実験されている技術として、VR(仮想現実:Virtual Reality)、MR(複合現実:Mixed Reality)、AR(拡張現実:Augmented Reality)およびそれらとAIやドローンなどを組み合わせた事例紹介がおこなわれました。また、メタバースがどのように生まれ、利用され、進化し、現在どのような活用がなされているのかを、遠隔会議やバーチャルアバターの事例を交えて紹介されました。AIについても、画像生成AIや対話AIなどについて、実際に生成される過程など含め紹介いただきました。最後にメタバースの事例として実際にある駅ホームの例をもとに、現実世界との接点を見出す試みもなされていて、メタバースの世界では時間と空間は自由にでき現実世界とも同期できる、それは設計・シナリオ次第である、との説明がなされました。

基調講演B「メタバースやオンラインを使った社会課題解決への活用事例や動向」

特定非営利活動法人 KHJ全国ひきこもり家族会連合会 本部事務局 森下 徹 氏より、KHJ全国ひきこもり家族会連合会等で現在おこなっている支援内容や活動紹介が行われました。テレワークやオンラインを活用した取り組みでは、コーディネーターを介さず依頼側とワーカー側が直接やりとりすると、関係の希薄さや知識に差がある場合は、お互いにストレスになるなどの留意点を報告いただくとともに、メタバース含め、ワーカー側がオンラインを通して仕事をしたいという希望は多いが、依頼はまだ少ないとの説明がありました。仕事があることは、当事者の自信や孤立防止につながるので、今後、プラットフォーム開発段階では、当事者経験者の声やニーズを直接聞いてぜひ活かしていただきたいとのご意見をいただきました。

メタバースを活用した引きこもりの方に対する就業・社会参加支援プラットフォームに関する戦略策定委員会活動経過報告

イノベーション戦略策定事業における「メタバースを活用した就業・社会参加支援プラットフォームに関する戦略策定委員会」の プロジェクトリーダーを務める、株式会社フォーラムエイト 執行役員 松田 克巳 氏より、戦略策定委員会で検討されている活動経過報告がおこなわれました。現在、戦略策定委員会では、AI等のICT技術を活用し、就業・社会参加できるように支援するメタバースを活用したクラウドシステムの要件を明確化するため、関係者(引きこもり当事者、受け入れ先企業など)へヒアリングを実施しての見え方の整理、引きこもり当事者が使いやすいUIや仕組みの検討、システムにおけるセキュリティ面での配慮事項の整理、生成AIやメタバースを活用したコミュニケーションの最適化の検討などを実施しています。また、テストシステムのデモ画面を投影し、検討中のプラットフォームのイメージを紹介しました。これらの整理・検討を踏まえ、今年度中に戦略立案を行い、次年度以降、システム開発のための実証実験など、次のステップに進む予定との報告がなされました。

パネルディスカッション ~メタバースを活用した引きこもりの方への社会参加支援策について~

下記の5名の専門家による、メタバースを活用した引きこもりの方への社会参加支援策について、パネルディスカッションがおこなわれました。

左からモデレーターの福田氏、パネリストの森下氏、福井氏、田代氏、松田氏
モデレーター:福田 知弘 氏(前出)
パネリスト:松田 克巳 氏(前出)
パネリスト:森下 徹  氏(前出)
パネリスト:福井 里江 氏(東京学芸大学 教育心理学講座 臨床心理学分野 准教授、臨床心理士・公認心理師)
パネリスト:田代 洋章 氏(一般社団法人日本支援技術協会 理事・事務局長)

はじめに、モデレーターの福田氏より、プラットフォームを有効に活用いただく前提としての関係者(引きこもりの当事者、ご家族、企業、支援する自治体や関係支援機関など)に求められる役割や役割を支える仕組みについてのテーマが投げかけられました。パネリストからの主な意見は以下のとおりです。

・引きこもりの当事者や家族には何に困っていてどうすれば軽減できるのかを把握する必要がある。企業や関係支援機関には個人の特性を支援することを受け入れる・理解する環境を整備する必要がある。
・当事者は興味があればとにかくやってみて欲しい。家族はITに疎く理解が及ばない場合もあるかもしれないが、こうした取組みを応援してほしい。関係者が集まって課題を議論し、解消できる場があるとよい。
・関係者へのヒアリングでは、支援機関では人材の割り当てや予算の確保の課題があり、企業側は仕事の出し方の工夫が必要とのコメントがあった。
・生きづらさを抱えている当事者が働きやすい会社として、企業側が当事者をサポートするのではなく、当事者の経験から企業が学び、新たなプラットフォームとして活かされていくことが大事である。

次に、福田氏より、関係支援機関や自治体へのヒアリング結果ではヘルスケアプログラムの評価もあったようだが、社会参加を促す取り組みを行うに際して、当事者の健康面に関する留意点についてのテーマが投げかけられました。パネリストからの主な意見は以下の通り。

・ヨガやハイキングなどやっているところは聞くが参加者は少ない。健康はあまり気にしていない当事者と健康のことばかり考えている当事者のいずれかの方が多い。
・没頭してしまうと過集中になる当事者がいると思うので、時計などの時間を見なくても、ぱっと時間が経過すると画面が埋まっていく面積をみたらどれくらい時間が経ったか分かるとか、音の違いで時間経過を認識させるなどの仕組みがあると良い。
・ヘルスケアプログラムを組み込むときの考え方が重要。引きこもりの方は運動不足なので運動が必要であるという考えではなく、大事な存在だからプログラムを提供する、という発想の転換があると良い。

次に、福田氏より、今回のプラットフォームを有効に就労支援するプラットフォームとするための課題や、プラットフォームの導入や普及のカギとなるポイントについてのテーマが投げかけられた。パネリストからの主な意見は以下のとおり。

・メタバースにおいてもアクセシブルであることが重要。個人の特性にあわせてカスタマイズできたり、OSやブラウザの標準アクセシビリティとバッティングしないことが大事。
・ワーカーと依頼者がうまくマッチングできる、割り振れるようなシステムが重要。
・仕事のメニューをどう作っていくのか。フルタイムで働いていただくための仕事を用意することは企業側も大変だと思うので、小さな仕事を切り出していくことによって、少しずつみんなが参加できる仕組みが、オンラインであれば作りやすいのではないか。医療・福祉領域でも発想されたことはあったが、仕事の切り出しが柔軟に上手くいかなかったため、コーディネートの役割を作り出すことができずに頓挫したケースがあった。
・サポート面では、自立の反対は依存だと考えられがちだが、自立というのは依存先を増やすことであるといわれている。生きづらさをもっている人たちは依存先が少ないと思うので、メタバースが始まったとしても、困ったときに依存できる先が限られてしまうと孤立の中に閉じ込められて上手く働けないということもあり得る。依存先がたくさん用意されて、いろいろなところに依存しながら仕事ができる仕組みがあると良い。

福田氏より、マッチングの話や支援機関の人材不足などの話について触れた後、バーチャルアバターのような何か良い仕組みは考えられないかとのテーマが投げかけられた。パネリストからの主な意見は以下のとおり。

・ずっとそこに常駐していないといけないという印象があるので、その分、占有される時間とコストがイコールになってしまう。例えば、チャットやSNSなどを用いてプッシュ式にすれば、普段は平常の業務を行い、通知がきたときに仕事を切り替えるなど、並行して業務ができる方法もあるかもしれない。実際やってみると課題はたくさん出てくるだろう。

最後に、福田氏より、メタバースでつなげる・つながる世界として今回のシンポジウムを開催したが、パネリストの皆様が近い将来に向けてどのような展望をお持ちか、またデジタルテクノロジーは目覚ましい進化を遂げているが、肝に銘じておくべきことなどあれば併せてお聞きしたい、とのテーマが投げかけられた。パネリストからの主な意見は以下のとおり。

・今回の取り組みが、引きこもり当事者をリアルな世界にもってくるという取り組みではなく、バーチャルな世界が経済とも結びついて動いていくのではないかと思う。生きづらさというのは誰しもいずれ経験することであるので、自分事として捉えて、環境整備や理解を図っていくことが重要。
・メタバース、オンラインなどICTの発達により、引きこもり当事者が働けたり人と関われるようになれたら良い。サポーターやコーディネーターの不足は、当事者としての経験がある人(ピアサポーター)が役割を担い、お互いに助け合う仕組みもあると良い。
・メタバースは、現実世界にプラスアルファで新しく経済活動できる世界が拡張されるイメージであり、それが実現できると良い。ソフトウェアの技術は急速に進化しているので、その特性を上手く利用して使えるようにすることを肝に銘じたい。
・人として一番辛いのは孤立や孤独である。家から出られなかったり人と会うことが難しいため、人とつながる機会を失っている当事者が、メタバースを使うことによって乗り越えていくことができたら素晴らしい。リアルでコミュニケーションを取れる人だけが得をする世の中ではなく、どんな特性を持っていても誰もが機会を得られて対等に色々な人とつながっていける、そのような新しい価値の創造が、本プロジェクトから生まれていくと良いと思う。

最後に、福田氏により、イノベーションをおこす一つのやり方として、異質なものを組み合わせるという方法もある、今回のテーマはその方法にもつながっていくと考えられる。本日のシンポジウムを踏まえ、さらに議論を深めていきたい、とパネルディスカッションが締めくくられました。

閉会挨拶

一般社団法人ソフトウェア協会 専務理事 笹岡 賢二郎より、本日のシンポジウムを振り返りを述べ、「どの組織でも一定の割合、引きこもりの方はおられると思いますので、本日のシンポジウムの内容が、皆様の課題解決の一助となれば幸いです、現地ご出席の皆様、オンラインご出席の皆様、最後まで聴講いただきありがとうございました」との閉会挨拶がおこなわれました。

アーカイブ配信

後日公開予定(3月上旬ごろ)

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