経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課長 年頭所感

2024年1月1日

令和6年 年頭所感

経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課
課 長 内田 了司  

 令和6年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

 昨年を振り返りますと、マクロでは国際経済秩序の変化やコロナからの再興といった大きな節目となった年であり、国内では史上最高を更新する国内投資見通し、30 年ぶりの水準の賃上げの実現など、成長と改革に向かう「潮目の変化」が生じた一年でした。個人や企業の将来期待を高め、民間主導の投資・イノベーション、高い水準の賃上げが続いていく、そうした新たな経済構造への転換が求められています。この転換期にあって、デジタル、特に DX(デジタル・トランスフォーメーション)はビジネス環境の激しい変化に対応し、データやデジタル技術を活用したビジネスモデルや組織の改革を通じて、競争優位を確立する有効な手段です。ソフトウェア協会及び会員の皆様が、デジタルの力で日本経済をより一層牽引していただくことを期待しています。

 社会のデジタル化は加速度的に進み、その重要性は増す一方です。経済産業省は、AI を巡る激しい環境変
化の中で、国内の開発力強化と AI が抱えるリスクへの対応を両輪で進め、生成 AI 時代に必要となる人材育成も強化します。また、AI の基盤ともなる半導体について、近年の迅速かつ大胆な政策を本年も推進します。世界は今、次世代半導体のラピダスをはじめ、日本の半導体産業やその支援策に期待を寄せ、日本に対する投資意欲も高まっています。この流れを継続すべく、本年も積極的な半導体政策を強力に展開します。併せて、GX の実現にも資する蓄電池の産業基盤強化や、経済安全保障上も重要なサイバーセキュリティ対策にも引き続き取り組みます。加えて、ドローンや自動運転等の社会実装に向けて、デジタル時代の社会インフラとして共通規格に準拠するデジタルライフラインの全国的な整備を進めます。これらを通じて、本年もデジタル社会の実現に向けた政策を実行してまいります。

 ここからは、情報技術利用促進課の取組について深掘りしてご紹介したいと思います。昨年の IT・デジタルの世界での最大の話題は生成 AI でした。そのインパクトは、インターネット時代の到来や、産業革命に例えられることもあります。実際、生成 AI はエンジニアだけでなく経営者レベルの関心を高めたという点でも、ゲームチェンジャーと言えるテクノロジーです。日本は世界的に見ても個人レベルでの生成 AI 利用者が多い一方で、ビジネス・企業レベルでの利用では他国より後れを取っているとのデータもあります。昨年、我々が経験した前向きな期待に反して生成AI 利用の後進国になってしまう可能性があります。生成 AI の技術や適切な利用方法等を理解し、これを適切に利用していくことを通じて、DX を一層進めていく必要があります。そのためには、こうした変化がもたらすデジタル人材育成の在り方についても検討が必要です。引き続き、DX 推進とデジタル人材育成を両輪として進めていくべく取り組みます。

 2020 年に開始した DX 認定制度は、先月時点で 882 者を認定しており、昨年度比 1.6 倍という伸びを示しています。優れた DX に取り組む企業が他社・他業種の模範となり、これを先導することは、DX の普及拡大に向けて有効な手段です。上場企業を対象とする「DX 銘柄」は、昨年 32 社を選定し、その中でも特に優れている企業として株式会社トプコン、日本郵船株式会社の2社を DX グランプリ 2023 として選定しました。昨年で 2 回目となる中堅・中小企業等の DX 優良企業を選定する「DX セレクション」は、20 社を選定し、最も優れた企業として、株式会社フジワラテクノアート(岡山県)を選定しました。毎年のレビューを通じて、こうした選定制度の価値を高め、優れた DX の取組が市場で評価されるよう、不断の見直しに努めます。優良事例には例外なく経営者のリーダーシップが見られます。より多くの経営者の皆様にこれら優良事例をご参照いただければ幸いです。こうした選定の基盤である「デジタルガバナンス・コード」の普及努力も続けます。昨年は、「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き」を「2.0」に改訂し、北海道から沖縄まで全国説明会を実施し、多くの地域企業の皆様にご参加いただきました。成長性の高い海外市場の獲得を含めた売上上昇につながる攻めのデジタル投資の促進や DX 人材の育成・確保に向けて、DX 投資促進税制もご利用いただけます。ビジネスモデル変革や製品・サービス開発強化につながる「攻め」の投資へと転じ、新たな成長市場を開拓していく DX の取組を支援してまいります。
 こうした取組にも関わらず、地域の中堅・中小企業の DX は大きく遅れています。これら企業は、人材、情報、資金の不足という課題を抱えており、自社だけで DX を推進することは容易ではなく、中小企業 DX の好事例には外部の支援機関が介在しているケースが多く見られます。そうした支援機関(地域金融機関や地域 IT ベンダー等)は重要な存在ですが、DX 支援の具体的方法が確立されておらず、また、担い手となる人材のスキルが明らかでないため、支援人材も不足しています。こうした状況を踏まえて、地域で活動する支援機関を念頭に、中堅・中小企業等の DX 支援の推進が中堅・中小企業等のみならず支援機関を含む地域全体の利益に繋がる、という共通理解の醸成及び具体的な DX 支援の在り方に関して議論することを目的として、「支援機関を通じた中堅・中小企業等の DX 支援の在り方に関する検討会」を立ち上げました。この議論を通じて、各地において様々な支援機関が地域企業の DX を支援し、それが地域の新たな成長を生み出すエコシステムを形成していくことを目指します。

 DX を支えるデジタル人材の育成も急務です。足下では人材不足が加速しています。生産年齢人口の構造的
な減少に加えて、高齢者・女性の社会参加は先進国の中でもトップクラスとなっており、もはや労働の「量」を増やすことは困難で、労働の「質」高めること、とりわけ年齢や職種に関わらず進歩の著しいデジタル技術を習得して、それぞれの持ち場で活躍し、社会全体で生産性を向上していくことが不可欠な時代となっています。政府は、2026年度までの5年間でデジタル人材を 230 万人育成するという目標を掲げ、文部科学省・経済産業省・厚生労働省を中心に、関係省庁が緊密に協力して次々と新しい政策を打ち出しています。
 経済産業省では、官民が協力したデジタル人材育成の流れを定着させることを主眼に、昨年末「デジタルスキル標準」を公開し、教育産業やユーザー企業における利活用を促してきました。教育機会の提供の観点では、「デジタル人材育成プラットフォーム」を通じて、リテラシーから実践的なプログラムまで幅広い学びの場やコンテンツを提供しており、立ち上げ1年半で 177 社約 550 講座掲載を提供するに至り、社会人リスキリング、とりわけ地域企業で働く方のスキルアップに貢献しています。
 生成 AI の登場は、デジタル人材の育成にも変化を促します。昨年8月に、「生成 AI 時代の DX 推進に必要な人材・スキルの考え方」を取りまとめ、生成 AI 時代に求められるスキルとして、変化をいとわず学び続けるマインド・スタンスや倫理等のリテラシー、AI と対話するためのプロンプト力や言語化能力、問いを立てる能力、仮説を立てる能力や生成物を検証する能力などが重要になることを示しました。これに合わせて、「デジタルスキル標準」の内容を生成 AI 対応でアップデートするとともに、IT パスポート試験も生成 AI に関するサンプル問題を公開し、本年の 4 月から生成 AI 関連に対応した試験実施を予定しています。
 また、需要が高まっている AI の学びの機会拡大にも取り組んでいます。AI や IoT 等の成長分野における優れた教育訓練講座を経済産業大臣が認定する「第四次産業革命スキル習得講座制度」は、昨年 12 月時点で
140 講座を認定しています。認定講座は厚生労働省の人材開発支援助成金の支給対象となり、これを利用す
る事業主に訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。今年から、AI の急速な進歩に対応した人材育
成を強化するため、厚生労働省と連携し、AI 関連の認定講座の対象を拡大します。新たに認定される講座につ
いても、教育訓練給付の指定対象となる予定です。会員企業の皆様におかれましても、社内のリスキリングにご活用いただければ幸いです。
 高等教育と社会の接続強化にも取り組んでいます。昨年から文部科学省・経済産業省で開催している「デジタル人材育成推進協議会」では、産業界、国公私立高専の代表、政府・自治体の代表者が集まり、時代の変化
を踏まえた情報教育強化の在り方について検討しています。文科省が設立した基金を通じて、全国の情報学部
学科の定員が現状の約3万人のところ、約1万人増の計画が承認されました。この情報教育強化の流れは、産
学の切実なニーズを背景に、更に加速していくものと思われます。

 デジタル技術の可能性を広げ、デジタル社会の未来を切り開く日本トップレベルの人材も重要です。ソフトウェア協会が運営事務局を担う「U-22 プログラミング・コンテスト」は、将来有望なプログラマーの苗床としての地位を確立していますが、その受賞者のレベルも年々上がってきているように思います。経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が実施する「未踏事業」においても、その有用性が評価されたことからクリエイター育成の規模拡大に取り組んでいます。昨年からは未踏事業の横展開として、地方独自の目線で、地方に、そして日本全体に新たな価値創出やイノベーションをもたらす独創的なアイデア・技術を持つ若い人材を発掘・育成する「AKATSUKI 事業」を開始し、全国で 27 件の人材育成事業を採択しています。こうした取組が相乗効果を発揮しながら、日本のデジタル経済を先導するリーダー層の集団として成長していくことを期待しています。

 本年も、ソフトウェア協会及び会員の皆様が、引き続き日本の DX の牽引役として、またデジタル人材育成の担い手として、各方面でリーダーシップを発揮されることを期待いたします。皆さまにとって、新しい年がより良き年となりますよう心から祈念し、新年のご挨拶とさせていただきます。

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