「専務のツブヤキ」
~半導体・デジタル産業戦略の改定とさくらインターネットへの補助金~

2023年7月15日

SAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

 5月30日に経済産業省の半導体・デジタル産業戦略検討会議が開催され、令和3年6月公表の 半導体・デジタル産業戦略が改定 されましたので、ツブヤキたいと思います。同戦略は(1)半導体分野、(2) 情報処理分野 、(3)高度情報通信インフラ分野、(4)蓄電池分野、(5)その他重要分野の個別戦略に分かれていますが、今回も情報処理分野にスポットを当てたいと思います。

まず、今回の改定の趣旨・背景ですが、簡単に言えば、

● 前回の半導体・デジタル産業戦略から2年が経過し、 米中の対立、ロシアのウクライナ侵攻など国際情勢が大きく変化 して経済安全保障リスクが重くのしかかっていること、さらに デジタル化やグリーン化への対応がより大きく・現実的な課題 なっていること

● 一方、今後は、 生成系AIの登場と量子コンピュータやAIコンピュータ等の情報処理の異次元の飛躍 データセンターにおける計算処理も更に圧倒的に拡大/用途別化 が進んでいること、また、 エッジ領域における分散情報処理の拡大 が見込まれ、産業の競争力の強化に向けてデジタル技術の活用が競争力の源泉と思われること

● そのため、 世界各国・地域も半導体・デジタル産業政策の重要性を認識し、経済安全保障等の観点から、異次元の支援等を実施 しており、適切なタイミングで適切な施策を講じるべく、我が国の目指す方向性を改定戦略としてまとめた。

とのことのようです。

 特に、情報処理基盤は、ものづくりや金融、カーボンニュートラルなど、あらゆる分野の高度化に必要となる重要な産業インフラであることから、次世代情報処理基盤(高度な計算環境の提供)の整備に向けて、様々な計算需要に応じ、 様々なコンピュータやネットワーク等の計算資源・計算手法が一体的かつ簡便にサービスとして提供 されることが必要と考えられます。この実現には、産業基盤の構築に向けて 高度な計算需要を持つユーザーコミュニティ や、 情報処理基盤に関する開発コミュニティ で、目指すべき方向性の具体化・共有化を図り、不足する技術・ノウハウ等の高度化に取り組んでいくことが重要であり、そうした取組を国としても支援していくとのことです。

 そして、国からの具体的支援の一つが、経済産業省が国内での生成AI(人工知能)開発の基盤づくりに乗り出し、 さくらインターネット(当協会会長会社)が近く整備するスーパーコンピューターの経費の半額を補助 するとの発表(6月16日付)でした。実は、国内AI開発向けの計算用インフラ資源には産業技術総合研究所のスパコン「ABCI(0.8E【エクサ:100京】 FLOPS)」があり、クラウドを通じ3000ほどの企業や研究者が活用していますが生成AI開発には計算能力が全く足りていません(従って、同社の今後整備するスパコンはABCIの2倍超の計算力)。今回同社は石狩市でのスパコン整備に135億円を投じますが、そのうち68億円を経済産業省が拠出します。大規模言語モデル開発に必要な 米エヌビディアのGPU(画像処理半導体)を2000基超搭載 するとのことで、そうすれば AI開発向けで国内最高の計算能力をもち、国内の計算能力は現状の3倍 に高まります。

 お役所もやるときにはやってくれるなあという気がします。さくらインターネットの株も本件の公表後、爆上がりです。計算能力あっての(生成)AIの活用ですので、当協会としても、引き続き半導体・デジタル産業戦略の動向には注視していきたいと思います。

 最後に、私事の弓道で恐縮ですが、6月25日に新宿区の例会で第1部(三段以下)、 10射5中で準優勝 (同中競射の優勝決定戦で負け)でした。7月16日の同じく例会では調子は今一つだったのですが、参加者の皆さんも調子が出なかったらしく、幸い 10射3中でも優勝 (同中競射の優勝決定戦で勝利)できました。入賞すると毎回結構立派な表彰状がもらえるのですが、還暦を過ぎても表彰状なんてと思いましたが、いくつになってももらえば嬉しいものですね、 SAJの仕事も頑張ろうという気になります (^_^;)

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、機械情報産業局鋳鍛造品課、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:一般社団法人ソフトウェア協会)専務理事に就任。

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