「専務のツブヤキ」
~興味深かったデータドリブン経営のお話~

2022年11月15日

SAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

 10月28日(金:最終日)にソフトウェア&アプリ開発展(@幕張メッセ)を視察してきましたが、CEATEC以上の人出、賑わいで、これはもうWithコロナだなあと実感した次第です。そこでの基調講演はDX経営戦略論ということで、日本で初めてデータサイエンス学部を創設した 滋賀大学データサイエンス学部の川本薫教授が「データドリブン経営」について講演 されていましたので、ここでちょっとツブヤキたいと思います。川本氏の経歴ですが、もともと大阪ガスでデータ分析の専門家として活躍していたそうです。

 まず、川本教授の最初の言葉は「 会社は意思決定の工場 」であり、その意思決定を通じて、様々な製品やサービス、品質向上、利益、顧客満足を生み出しているとのこと。私も以前このコラムで、 ホワイトカラーの生産性は意思決定のスピードであり、工場のように(意思決定の)仕掛品を如何に減らすかではないか と申し上げたことがありましたが、考え方が似てるなあと非常に感銘を受けた次第です。従って、意思決定のプロセスを経験と勘に頼るのではなくデータとAI(人工知能)に変えること、それが「データドリブン経営」であるとのこと。問題はどうやって?ということかと思います。既存の経験と勘に頼る意思決定プロセスの枠組み(暗黙知)を変えないでデータ分析やAIなどのツールだけ導入してもダメとのことでした。例えば、 データ分析後の結果、データが基準値〇〇以上であれば□□するなど客観的な判断基準で意思決定する枠組み(やり方)などに慣れることが重要 そうでした。

 例えば、製造データをたくさん持ってきてデータサイエンティストにこれを分析して原因がわからないかとの安易な相談が多いとのこと。しかし、 データ分析から様々な要因との関連性は分かるが原因は分からない とのこと。原因はやはり、データ分析の結果を現場の暗黙知を合わせてやっと判明することが多いとのことでした。

 マーケティング 分野では、 購買心理から仮説を立てて実際に販売戦略を立てられるマーケッターを育てること (データを生かせる人材育成)とその 販売結果の効果検証を容易にするシステム(IT基盤) が揃わないとデータドリブン経営はできないとのことでした。

 このように、「データドリブン経営」の基本的な枠組みは、 課題設定⇒意思決定プロセス⇒予測モデルの構築、(データを生かせる)人材育成、ノウハウを貯める(暗黙知との融合など) となりますが、 特に日本人は欧米人に比べ課題設定(気付き?)のところが非常に弱い とのことでした。私も課題設定は重要な気がしています。以前、NEDOで研究評価部長をしていて、新人として博士課程修了者が入っていたことがありました。当時、研究評価部の業務目標に論文〇本以上というのもありましたので、私が日頃の業務でこうなんじゃないかと思っている仮説を新人君に教えてどんどん論文を書かせたことがありました。仮説=課題設定が出来ればあとはそれを検証(又は試行)すれば新たな発見につながりますし、その仮説が間違っていても、それはそれでそのことが分かったことも一つの発見と言え、今後の業務に役立ちます。ということで、私は、 課題(又は仮説)が設定できるという能力というのは非常に付加価値を生み出す蓋然性の高い稀有な能力 であると考えています。

今後とも、DX経営戦略にとってデータドリブン経営は目が離せないと思った次第です。

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、機械情報産業局鋳鍛造品課、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:一般社団法人ソフトウェア協会)専務理事に就任。

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