「専務のツブヤキ」
~東京工科大学のコープ教育から新事業? ~

2022年8月15日

SAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

 8月に入りましたが、連日の猛暑が続きうんざりしていたのですが、8月5日に久しぶりの前職でコープセンター長を務めた東京工科大学を訪問し、大山学長にお会いしてきました。同大学は片柳学園という学校法人が運営していて日本工学院という専門学校を母体として設立されています。専門学校の方は2017年以降、U-22プログラミングコンテストで経済産業大臣賞を始め商務情報政策局長など入賞の常連校です。併設している大学にはコンピュータサイエンス学部やメディア学部という情報系の学科もありますので、今後のU-22への参加を是非にと働きかけてきました。

 今回のコラムでは、当協会も人材委員会が活発に活動しておりますので、私が前職でコープ教育の中核部分である コープ実習(有給の長期インターンシップ制度) を立ち上げた時のお話をツブヤキたいと思います。大山学長はその時からの戦友です。2013年の春ごろ、私はIPAのセキュリティセンター長を務めていましたが、経産省の人事に呼び出され、「笹岡さん、人事票に大学に行きたいと希望を出していたよね?東京工科大学の学長から今度新設する工学部でコープ実習を必修科目にするので学生の受入先企業の開拓を任せられる方を派遣してほしい」と話が来ているとのことで私にお鉢が回ってきたことが始まりでした。行ってみると大学にはコープ教育・実習に関して米国に調査に言った報告書があるのみで、 コープ実習を立ち上げるノウハウ・ヒト・カネは何もなく当初は途方に暮れ ていました。

 そこで、まず、 ノウハウですが、たまたま知り合った学生にアルバイトを紹介する事業者が有給のインターンシップ事業もやっているのでそこと手を組む ことで何とかしました。次にカネですが、制度の立上げの 当初5年間に6千万円ほどもらえる文部科学省の加速化補助金を申請し、何とか採択 されたことで大学側も裏負担なら仕方ないということで目途が付けられました。 カネが確保できると自然とヒトも回してもらえる ので、やっと米国の大学ではポピュラーであった コープセンター(学生と企業との仲介をする機能) の立ち上げに漕ぎ着けることができました。

 ただ、コープセンターの最大の課題は、実際働き手として能力未知数の学生に2か月間分の給料を払って実習にお付き合い(雇用と成績評価への協力)してくれる殊勝な企業を開拓することでした。今でこそインターンシップ採用が新卒採用の主流となっていますが、当時はそうなる前でしたのでどこから始めようかと考え、とりあえず、大学とお付き合いがあり、卒業生も過去に採用している地元企業数社にお願いして夏休みと春休みに試行として2週間から1か月程度のコープ実習(10名前後)をお願いするところから始めました。

 その結果、実習スキームとして、 企業側が受け入れやすい派遣制度を活用 すること、そのため 大学が業務委託する業者にコープ実習期間だけ学生を雇用 してもらい、給料の支払い等の労務管理や安全管理(労災関係)を任せる こと、 受入れ企業は学生を通常の派遣社員と同様に採用 してもらうという独自のやり方を考案しました。

 問題の企業開拓では、意外とツボを押さえて営業すれば受入れ企業を開拓できることがわかりました。当時、中小企業庁がモノづくり300社などを実施していて、そのような企業にDMを送ると関心ありとのお問い合わせが結構きました。聞けば、 どの社も技術力もあり財務的にも安定しているが、悲しいことに知名度がなく学卒がほとんど採用できていないし、大学とのお付き合いもこれまでほとんどなかった とのこと、コープ実習を契機に学生に来ていただければ ひょっとしてその実習生をそのまま卒業に採用できる かもしれないし、東京工科大学と採用でお付き合いができるならメリットがある とのことでした。そのため、私が大学を辞めるまで 最後の1年弱ほどの期間で100社程度の企業とコープ実習の契約 が取れました。そのほか、コープセンター長としてコープ実習に学生を派遣する前の事前教育のカリキュラム作成にも関わらせて頂きました。

 8月10日に私の後任でコープセンター長に就任していた戸井教授と打ち合わせをしましたが、今年度の春休み (来年2月~3月)に3週間ほど、東京工科大学では工学部以外の コンピュータサイエンス学部(CS)とメディア学部(MS)でも試行的にコープ実習生(学部の2,3年生)を派遣 したいとのこと、受入れ先企業を今開拓中とのことでした。これは丁度良い機会ですので当協会の会員企業にも是非コープ実習生を受け入れて頂き、日頃会員企業の皆様が頭を悩ませている人材確保の課題解決の一助になればと思う次第です。また、同大学では2024年度からCS、MSの学生を全員必修で何らかのインターンシップに出すそうです。そうなれば、今回の試行的なコープ実習生の受入れは本格受入れへの試金石になるかもしれないと期待する次第です。

 そこで思うのですが、コープセンターの協会版をできないものかなという気がしています。当協会が有給のインターンシップ生を受け入れたい会員企業のために 学生を学外実習に出して学ばせたい大学を開拓してインターンシップ生を確保 し、 会員企業と 学生とのマッチング を行い、 当協会(又は当協会が業務委託した社)が学生を当該期間だけ雇用して派遣社員として会員企業に送り込む というのが企業版コープセンターの事業イメージです。まだ、当然のことながらアイデア段階で大学側にどれほどのニーズがあるのか、協会として採算が取れるのかなどの課題はありそうですが、来年度以降の新事業として検討する価値はありそうです。

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、機械情報産業局鋳鍛造品課、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:一般社団法人ソフトウェア協会)専務理事に就任。

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