経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課長 年頭所感

2023年1月1日

令和5年 年頭所感

経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課
課 長 内田 了司  

令和5年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

昨年は、コロナ禍から徐々に経済活動を回復基調に戻そうとするウィズ・コロナの一年でした。同時に、世界はコロナ禍の他、気候変動、ロシアによるウクライナ侵略という危機に直面し、時代の転換点を迎えています。こうした環境の中で世界中の国々が成長を続けるために競い合っています。デジタル、特にDX(デジタルトランスフォーメーション)はビジネス環境の激しい変化に対応し、データやデジタル技術を活用してビジネスモデルや組織の改革を通じて、競争上の優位性を確立する上での有効な手段です。ソフトウェア協会及び会員の皆様が、DXを武器にこの時代の変革をチャンスとして捉え、果敢に挑戦し、日本経済の牽引役となることを期待しています。

経済産業省商務情報政策局は、デジタル社会の実現に向けて、本年も様々な取組を強力に進めてまいります。

昨年、次世代半導体の研究開発拠点LSTC(最先端半導体技術センター)の立上げと、将来の量産拠点であるラピダス社への支援を公表しました。半導体に加え、蓄電池・クラウド・サイバーセキュリティ等、DX、GX、経済安全保障を支えるデジタル産業基盤の強化に引き続き取り組みます。

昨年末の総理指示に応えるべく、デジタル時代の社会インフラ整備に向けた長期計画の策定・実行を、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のデジタルアーキテクチャ・デザインセンターで設計する見取り図に基づいて進めます。

デジタル人材の育成については、文部科学省と共同で立ち上げた「デジタル人材育成推進協議会」において、大学・高専の人材育成機能強化に取り組みます。デジタル人材育成プラットフォームを通じた全国規模の人材育成、半導体・蓄電池等の地域特性を踏まえた人材育成を進めます。

本年、我が国で「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」が開催されます。日本が提唱したDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)を実現するための国際枠組みの提案を含め、本会合の成功に向け尽力します。

DX推進とデジタル人材の育成・確保について述べますと、これはまさにコインの裏表です。DXの進展がデジタル人材の需要を高め、デジタル人材を育成する関係者の努力がDXの更なる広がりを実現します。したがって、DX推進とデジタル人材の育成・確保を政策の両輪として、相互に高め合うことを意識しながら推進していくことが不可欠です。

経済産業省では、企業のDXを後押しする施策を様々展開しています。昨年は、DXに取り組む経営者、企業DXをサポートする支援機関の参考となるよう、DXの進め方やポイント、好事例をまとめた、「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き」を作成しました。この手引きの普及のため、北海道から沖縄まで全国9地域で説明会を実施し、多くの地域企業の皆様にご参加いただきました。また、2020年よりDXに取り組む事業者に対するDX認定制度を開始しました。認定事業者は先月時点で548者にまで拡大しており、昨年比2.5倍とDXへの関心が更に高まっていることが伺えます。

DX認定の基準となる「デジタルガバナンス・コード」についても、デジタル人材の育成・確保を認定基準の基本的事項に含める等のアップデート(デジタルガバナンス・コード2.0)をしました。ユーザー企業側のDX拡大につれて、企業内のデジタル人材育成・確保が必要となる実態に即したものです。組織の課題を理解する企業人材がデジタルスキルを身につけることは、DX推進にとって不可欠です。

優れたDXに取り組む企業が他社・異業種のDXの模範となり、これを先導することは、DXの普及拡大に向けて有効な手段となります。上場企業を対象とする「DX銘柄」は、昨年は35社を選定し、その中でも特に優れている企業として中外製薬株式会社、日本瓦斯株式会社の2社をDXグランプリ2022として選定しました。また昨年から、新たに中堅・中小企業等向けの優良企業を「DXセレクション」として選定しています。昨年は16社を選定し、最も優れた企業として、株式会社山本金属製作所(大阪府)を選定しました。このような選定制度を通じて、事業規模を問わず、優れたDXの取組が市場で評価されるような取組を進めていきます。こうした優良事例には例外なく経営者のリーダーシップが見られます。より多くの経営者の皆様にこれら優良事例をご参照いただければ幸いです。

DXの支援制度として、2021年にDX投資促進税制を創設し、昨年12月時点で37社が利用しています。令和5年度税制改正大綱において、成長性の高い海外市場の獲得を含めた売上上昇につながる攻めのデジタル投資の促進やDX人材の育成・確保の観点から要件の見直しを行い、2年間の延長が認められました。国内のデジタル投資は、業務効率化やコスト削減を目的とした「守り」の投資が未だに太宗です。これをビジネスモデル変革や製品・サービス開発強化につながる「攻め」の投資へと転じ、新たな成長市場を開拓していくDXの取組を支援してまいります。

DX推進の担い手となるデジタル人材の育成は急務です。経済・社会のデジタル化に伴い、地域や年齢を問わずあらゆる分野でデジタル人材が求められています。大学・高等専門学校におけるデジタル人材の育成強化に向けて、文部科学省・経済産業省で「デジタル人材育成推進協議会」を立ち上げました。社会が求めるデジタル人材を質・量の面で確保するべく、大学・高専の機能強化や実務家教員の活用策について、産学官で協議を行います。学生全体のデジタルスキルの底上げは、ソフトウェア協会が運営する「U-22プログラミング・コンテスト」にとってもプラスです。40年以上の歴史を持つこのコンテストが、国内はもとより世界の舞台で活躍する若い世代のリーダーを育成するプログラムとして、トップ層のレベル向上に貢献を続けていただくことを期待します。

デジタル人材のニーズの急速な高まりを受けて、企業内人材を始めとする社会人のリスキングが重要な課題となっています。足下では、DXを推進するユーザー企業はもとより、教育・研修企業、人材派遣企業等様々な企業がリスキリングに取り組み始めています。経済産業省も様々な取組を通じて、こうした動きを後押ししていきます。「第四次産業革命スキル習得講座制度」では、AIやIoT等の成長分野における優れた教育訓練講座を認定します。認定講座は厚生労働省の人材開発支援助成金の支給対象となり、これを利用する事業主に対して訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。昨年12月時点で117講座が認定されています。

また、リスキリングの直接的な支援策として、昨年3月に「デジタル人材育成プラットフォーム」を立ち上げ、様々なデジタルスキルを学べる講座の一元的な提供を開始しました。本プラットフォームのポータルサイトにおいて、第四次産業革命スキル習得講座を含む学習コンテンツを約270講座掲載しています。更に、データ付きのケーススタディ教材を用いて企業へのデジタル技術導入を一気通貫で疑似体験するオンライン学習プログラムや、DX推進に課題を有する実際の中小企業と協働しデジタル技術の実装に取り組むオンライン研修プログラムも提供しています。実践的なDX推進能力を身につける有効なツールとして、業種・規模を問わず、全国の企業のリスキリングに是非活用いただければと存じます。

官民を問わず、リスキリングの取組が活性化するためには、DX時代のデジタル人材像を明確にすることが不可欠です。昨年末に、経済産業省・IPAは、有識者の参画を得てこの人材類型の具体化に取り組み、昨年末にこれを「デジタルスキル標準」(DSS)として策定・公表しました。DSSは、経営者を含む全てのビジネスパーソン全体がDXを自分事としてとらえ変革に向けて行動できるように促す「DXリテラシー標準」(DSS-L)、企業がDXを進める際に必要となる人材の役割や習得すべき知識・スキルを明確化する「DX推進スキル標準」(DSS-P)の2種類で構成されます。今後は、関係省庁との連携の下で、様々な民間プレイヤーの関与を得ながらDSSの普及・活用に向けて取り組むとともに、ユーザーのフィードバックを得ながら、DSSの継続的な見直しを行います。DX推進に必要なデジタル人材の育成・確保に向けて、是非とも、このDSSを活用いただければ幸いです。

こうした取組を通じて、「デジタル田園都市国家構想基本方針」、「デジタル田園都市国家構想総合戦略」が定めた、デジタル推進人材230万人の育成目標に貢献してまいります。

最後になりましたが、ソフトウェア協会及び会員の皆様が、引き続き日本のDXの牽引役としてリーダーシップを発揮されることを期待するとともに、皆さまにとって、新しい年がより良き年となりますよう心から祈念し、新年のご挨拶とさせていただきます。

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