経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課長 年頭所感

2019年1月1日

平成31年 年頭所感

経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課
課 長  中野 剛志

 平成31年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

 近年、AIやIoT、ロボット技術などによる変革が、ブームとして広く社会に知れ渡り、日本においても多くの企業経営者が、将来の成長、競争力強化のために、こうした新たなデジタル技術の導入・活用が必要と認識するに至っています。

 他方、試行導入や実証(PoC)といった表面的なレベルを超え、新たなデジタル技術を真に活用して、新たなビジネスモデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション(DX)にまで至っている企業は、未だ少数にとどまっているのが実態です。

 昨年、経済産業省では、日本企業が、真にDXを実現するための課題と方策を検討するため、「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を開催し、9月に「DXレポート」を公表しました。DXレポートでは、日本企業がこのままデジタル技術に対応できず、手をこまねいている状況が続けば、2025年には、「2025年の崖」ともいうべき、国際的なデジタル競争の敗者となるとともに、システムの維持管理費の高騰、保守運用の担い手不在によるシステムトラブルリスクの高まりなどの事態に直面し、日本経済全体では最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性すらあることが示されました。

 本格的なシステム刷新や人材育成、体制構築には相当の年数がかかることを考えれば、「2025年の崖」を乗り越えるための行動は今から起こしていかなければなりません。経済産業省としては、本年を、日本がDXに向けた確実な一歩を踏み出す勝負の年と位置付け、政策を展開するとともに、広く民間の皆様に行動を呼びかけていきます。

 まず、DXに向けて求められる対応としては、システム刷新の促進があげられます。未だ8割の企業が、複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムを抱えていると言われ、これが、戦略的な投資や人材活用を妨げ、デジタル技術の導入によるデータ活用や、環境変化に応じた柔軟なシステム対応等を困難としています。国では、昨年6月から、一定のサイバーセキュリティ対策が講じられたデータ連携・利活用により、生産性を向上させる取り組みについて、それに必要となるシステム等の導入に対して、30%の特別償却又は最大5%の税額控除を適用する「コネクテッド・インダストリーズ税制」の運用を開始しています。こうした税制も活用し、計画的なシステム刷新を進めて頂きたいと考えています。今後、システム刷新の促進に向け、システムの現状と問題点を把握するための「見える化」指標・診断スキームの策定や、システム再構築・アジャイル開発等も念頭に入れたユーザ・ベンダ間の契約ガイドラインの見直しにも取り組んでいきます。

 また、デジタル技術に対応した人材の発掘・育成も急務です。経済産業省では、エンジニア等の社会人の方に、デジタル技術等について学びなおして頂き、高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図ってもらうため、専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定する「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を整備し、昨年から、順次認定が進んでいます。これからの時代においては、エンジニアの方のみならず、広く社会人の方にデジタル技術についてのリテラシーを持っていただくことも課題であり、本年4月には、ITパスポート試験の抜本改訂(iパス4.0)を行い、AI、IoT、アジャイル、DevOps等の新しい技術・手法に関する出題を強化します。

 10年以上先の未来を見据え、若い人材、未来技術を担う人材の発掘・育成を強化していくことも重要です。これからのイノベーションをリードする突出した人材の発掘・育成のため、2000年から実施している「未踏IT人材発掘・育成事業」については、昨年から、量子コンピュータ等の未来技術を活用するソフトウェア開発に挑戦する「未踏ターゲット」枠を創設するなど、引き続き、強化を図っていきます。猛スピードで進化する情報技術に対応していくためには、数学をはじめとした理数系人材の育成強化や活躍促進も重要な課題です。昨年8月から文部科学省と共同で、「理数系人材の産業界での活躍に向けた意見交換会」を開催し、検討を進めていますが、本年はこうした検討をもとに、政策の具体化を急ぎたいと考えています。

 さらに、DXの動きを地方や中小企業にまで面的に広げていくことも大事な課題です。経済産業省では、地域において、自治体、企業、学校、市民等が連携してデジタル技術を活用したプロジェクトを起こし、地域のビジネスとして定着を目指す取組を「地方版IoT推進ラボ」として選定しています。これまでに、全国93地域が選定され、いずれも、地方の強み・特色を活かしたユニークな取り組みとして、活動が続けられています。今後ともより一層選定地域間や他省庁施策などとの連携を強化し、新たな成長につなげていきます。DXによるビジネス刷新は、企業に対し、様々な変化をもたらしますが、そのひとつの側面として、働き方改革への効用もあげられます。とりわけ、場所・時間に縛られず、柔軟な働き方を可能とするテレワークの普及は、2020年に東京オリンピック・パラリンピック大会を控える中、緊急の課題となっています。一昨年から、同大会の開会予定日である7月24日を「テレワーク・デイ」とし(昨年は、7月24日を含む週を「テレワーク・デイズ」とし)、広く企業等の皆様に、テレワークの実施を呼びかけさせて頂いており、昨年は、コンピュータソフトウェア協会及び多くの会員の皆様にも多数ご参加頂き、計30万人以上の方にテレワークに参加いただきました。本年は、同大会まで、いよいよ1年となります。本年は、本番前最後の「テレワーク・デイズ」となりますので、皆様におかれましても本番さながらのご協力を、よろしくお願いいたします。

 最後になりましたが、コンピュータソフトウェア協会及び会員の皆様が我が国のデジタルトランスフォーメーションを牽引していただくことを期待するとともに、皆さまにとって、新しい年がより良き年となりますよう心から祈念し、新年のご挨拶とさせていただきます。

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