「溜池備忘録」その3「スタートアップの創業者利益」

2015年10月15日

CSAJ 専務理事 前川 徹

「ヒューストン」か「ハウストン」か?

 前回、Awardの正しい発音は「アワード」ではなく「アウォード」だという話を書いたが、米国と英国で発音が異なる英単語がいくつかある。たとえばscheduleは米国では「スケジュール」であるが、英国では「シェジュール」である。
 もっと困るのは米国内で二通りの読み方がある単語だ。たとえば、Houstonは「ヒューストン」と発音されるケースと「ハウストン」と発音される場合がある。テキサス州最大の都市であるHoustonはヒューストンであるが、ニューヨークにあるHouston Streetはハウストン・ストリートである。
 Dropbox共同創業者兼CEOのDrew Houstonのファミリーネーム(姓)は、ハウストンと発音するのだが、日本ではヒューストンと紹介されることが多い。たぶん、テキサス州ヒューストンの方が、ニューヨーク市のハウストン・ストリートより知名度が高いからだろう。

1日500万円

 ドリュー・ハウストンは、1983年3月4日生まれなので現在32歳である。5歳からプログラミングを始めたという筋金入りのプログラマである。2006年にマサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業し(電気工学とコンピュータ・サイエンスの学士号を取得している)、2007年に後にDropboxとなるシステムの開発を始めたと言われている。
 米国の経済誌Forbes(フォーブス)によれば、ドリュー・ハウストンの資産は約12億ドルである(注1)。1ドル120円で換算すると1440億円になる。サイバー大学の学生に「Dropboxの共同創業者であるドリュー・ハウストンの資産は1440億円だ」と教えたところ、資産額が大きすぎてイメージがわかないと言われた。そこで、電卓で計算して「毎日500万円使って、80年生活できる金額だ」と答えたら、「毎日500万円使う生活が想像できません」という返事が返ってきた。
 確かに1440億円は巨額の資産ではあるが、フォーブス誌によれば米国で487番目の資産家である。
 フォーブス誌の2015年長者番付リスト(注2)によれば、米国で最も多くの資産を保有しているのはマイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツで792億ドル、第2位は投資家のウォーレン・バフェット(727億ドル)、第3位はオラクルの創業者ラリー・エリソン(543億ドル)となっている。
 ちなみにIT系企業の創業者としては、15位にAmazon.comのジェフ・ベゾス(348億ドル)、16位にFacebookのマーク・ザッカーバーク(334億ドル)、19位と20位にGoogleのラリー・ペイジ(297億ドル)とセルゲイ・ブリン(292億ドル)がランクインしている。

(注1)http://www.forbes.com/profile/drew-houston/

(注2)http://www.forbes.com/billionaires/list/

ジェフ・ベゾスの創業者利益

 長者番付に企業の創業者が多いのは、起業した時の持ち株によるところが大きい。例としてAmazon.comの創業者ジェフ・ベゾスがいかにして4兆円もの資産家になったのかをみてみよう。
 ベゾスは1994年7月に後にAmzon.comとなる会社を興している。この時にベゾスが出資した金額は1万ドルであり、発行株数は1020万株である。つまり、1株あたり0.1セントの株価で株式を発行したということになる。この約半年後、1995年2月、ベゾスは父親に一株当たり約17.17セントで58万2528株の新株を発行して10万ドルを調達している。さらに1995年7月に、母親が管財人をしているガイス・ファミリー信託に、父親と同じ条件で84万7716株を発行して15万ドル弱を調達している。その後、1995年末までに20人近くのエンジェルから100万ドル近くの資金を調達し、1996年春にシリコンバレーの有名なベンチャー・キャピタルであるKPCB(クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ)から約800万ドルを調達している。この時にKPCBが得た株式は340万1346株、1株の価額は2.35ドルだったと言われている。
 そして1997年5月にAmazon.comは新規株式公開に踏み切る。売出価格は18ドルであった。つまり、ベゾスにとっては0.1セントで発行した株が18ドルになったので、1万8000倍になったことになる。その後、Amazon.comの株は1998年4月に1対2、1998年11月に1対3、1999年7月に1対2の株式分割を行っているので、ベゾスの持ち株は(創業時の株を売っていなければ)1億2240万株になっている計算である(実際には上場以来、少しずつ売却しており、2015年2月時点でベゾスが保有している株は約8400万株になっている)。
 設立時の1株が12株になっているので、現在の1株をベゾスは0.083セントで手に入れたことになる。2015年10月8日時点でAmazon.comの株価は533ドル16セントなので、創業時から株価は約640万倍になったことになる。
 かくしてIT系スタートアップの創業者は、短期間に億万長者になるのである。

蛇足的メモ

 そうそう、忘れてはいけないことがもう一つあった。ベゾスはプリンストン大学で電子工学とコンピュータ・サイエンスを専攻しており、デリバティブを専門とするBankers Trustという金融機関で年金基金向けの情報システム開発に従事していたことがある。彼もまた世界を変えた(元)プログラマの一人である。

筆者略歴

前川 徹 (まえがわ とおる)

1955年生まれ、1978年に通産省入省、 機械情報産業局情報政策企画室長、JETRO New York センター 産業用電子機器部長(兼、(社)日本電子工業振興協会ニューヨーク 駐在員)、情報処理振興事業協会(IPA)セキュリティセンター所長 (兼、技術センター所長)、早稲田大学 大学院 国際情報通信研究科 客員教授(専任)、富士通総研 経済研究所 主任研究員などを経て、2007年4月からサイバー大学 IT総合学部教授。2008年7月に社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。

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