「専務のツブヤキ」
~新しい資本主義、成長から分配へ? 資産運用から学ぶ経営への示唆?~

2021年11月15日

SAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

 10月末に衆議院選挙が終わり、自民党が単独で安定多数を確保し、岸田政権も来年の参議院選挙を乗り切れば、長期政権が見えてくるかもしれませんが、今後の分配政策次第かなと思う次第です。

 そこで今回の選挙で話題となった分配政策ですが、10月26日に政府内に「 新しい資本主義実現会議 」というのが立ち上がりました。カギは、成長だけでなく、 新たな成長に結びつく「分配」を同時に進める こととのです。そのための諸課題の解決に向けて、「政府」、「企業(経営者、働き手、取引先)」、「イノベーション基盤(大学等)」の役割、「国民・生活者」の参画の在り方、官民の協力の在り方が議論されるようです。

 それでは、諸課題とは何か、①国際環境としては、米中に代表される技術をめぐる 国際競争の激化、気候変動など持続可能性 、②マクロ経済では 生産性、潜在成長率の低さ、成長分野への労働移動 、③産業競争力・企業経営では、 国際競争力の低迷、企業の人財投資の減少 、④人の面では、 不十分な能力開発の機会、女性・若者・フリーランス・非正規の格差 などが考えられると思います。そして、これらの課題に、「政府」、「企業」、「イノベーション基盤」、「国民・生活者」はどのような役割を果たすべきなのでしょうか。おそらく岸田総理的には、 「政府」が分配政策の旗を振り、「企業」に賃上げをさせ、そして格差是正の観点から「国民・生活者」、特に女性・若者・フリーランス・非正規のリスキルを「イノベーション基盤」に担わせ所得アップにつなげていく というのが私的な推測です。

 じゃ、次の成長に向けた分配ってどんな政策が考えられるでしょうか。総理は 分厚い中間層の構築 と言っていますので、特に看護・介護・保育分等の現場で働く方々の賃金・所得に引き上げと女性・若者・フリーランス・非正規の方々の主体的なキャリアアップの促進、下請け取引への監視の強化、持続可能な社会保障(2000万円問題への対応)などが重視されるようです。基本、 社会的弱者の底上げによる格差是正 という事ではないかと思われます。

 これまで、IT、デジタル政策は「成長」戦略の中で語られることが多かったような気がしますが、岸田政権下では、 今後はIT/デジタル政策も分配政策の中でどう泳いでいくか も考える必要がある気がします。従って、バラマキと揶揄されつつも、中小企業向けで格差是正にも役立つと考えられますので、 IT導入補助金には追い風かなと思うとともに、今度の補正予算にも期待 せざるを得ません。また、賃上げ、所得向上という観点で、 デジタル人材育成など人材政策にも追い風 が吹きそうな気がします。

 実は最近、ITS基金様の資産運用委員を拝命しました。先日、初めて同委員会に出席したのですが、大変勉強になりました。たまたま、先日のノーベル賞とも関係あるのですが、気候変動と関連する資産の運用について議論が交わされました。過去50年間のハリケーンの発生件数のグラフが示されたのですが、 最近20~30年は明らかに大型ハリケーンの発生件数が増えていることが一目瞭然 でした。ただ、不思議なことに 資産のパフォーマンスに直接影響を与えるハリケーンの米国への上陸回数はほとんどそれと相関が無さそう で、気候変動はハリケーンの進路にも影響を与えてるのかと思った次第です。若かりし頃、リオサミット直後で地球温暖化をテーマにして留学して修士号を取ったので興味深く聞かせて頂きました。

 また、基金の資産運用の基本方針は長期安定運用を目指すため、 株・債券といった伝統的資産と相関性の低い(又は無い)オルタナティブ資産での運用をかなり重視 しています。つまり 分散投資でボラティリティを低く抑えて、長期安定的な資産運用を行うというのが同基金の確固たる方針 と理解しました。そこでふと思ったのですが、例えば、同じ大学の同じタイプの優秀な人材だけで固めた会社と 多様な人材・働き方を採用している会社 と長期的にどちらが安定的に成長できるのかと、、、 それは様々な経営環境の変化(激変)に適応できる多様性のある後者 であり、それはダーウィンの進化論(強いものではなく環境の変化に適応できるものが生き残る)からも自明の理のような気がしました。そう考えると、同基金の運用方針は経営にも重要な示唆を与えている気がした次第です。

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:一般社団法人ソフトウェア協会)専務理事に就任。

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