「専務のツブヤキ」
~研究開発税制見直し、日本学術会議問題、就職氷河期短期研修コース事業など~

2020年10月15日

CSAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

 コロナの影響で例年より1か月遅れでしたが9月末に政府予算の概算要求が提出され、来年度に向けた新政策の議論が政府内で本格化しました。私的には、今年度は現行の 研究開発税制の見直しの議論がなされる予定 ですので、 デジタル化の進展ということでソフトウェア開発の扱いに注目 しています。従来の研究開発税制の考え方は、あまりにも製造業に偏っており、ソフトウェアの研究開発とは?という議論が置き去りになってきたと思っております。これまでソフトウェアの研究開発の定義はパッケージソフトを前提にプロットタイプまでで、以降のバージョンアップは製品開発(税制範囲外)という考え方でした。当然、 プロットタイプ以降の ソフトウェア(含むクラウド)も資産計上されることが多いと聞いており、これまで研究開発税制の範囲外になっています。しかしながら、ソフトウェアもクラウド化の進展でバージョンという考え方が希薄になり、今後はアップデート(常に研究開発中?)という考え方が主流となると思います。その意味で、 ソフトウェアの研究開発についてはその定義を見直し、研究開発税制の建付けもソフトウェアのクラウド化を前提としたものにアップデートされることを期待 する次第です。

 先日から日本学術会議が推薦する会員のうち6名が政府から任命されなかったと世間で騒がれています。一般的には人事に関することは結果が全てであり、余程のことが無い限り、人事当局がその理由を一々説明する必要がないというのが世の中の慣例のように思いますが、今回に限ってはどういう訳か説明責任という言葉が飛び交っています。その原因は、1983年の 故中曽根総理による「政府による任命は形式的なもの」との国会答弁 とされているようです。ただ、元官僚の私としてはこの国会答弁はあり得ないと思うのですが、でもそうならなかったのは何故でしょうか?

 ここからは単なる私の推測ですが、(私には当時の国会の状況は伺い知れないのですが、) 日本学術会議法改正の審議の過程で法案をどうしても通すためになんらかの政治的判断が働かざるを得なかったのではないでしょうか 。当時(1983年)は、政府委員という制度がまだあって、 法解釈などの細かい質問は官僚である政府委員(通常局長クラス)が答弁するのが通例 でした。もし政府委員が答弁するなら必ず政府の独自の判断により同会議からの推薦者をそのまま任命しなくてもよいとする道を残したはずです。ですが報道等によれば、当時この法解釈に当たる答弁を 政府委員でなく故中曽根総理大臣が自ら答弁していることからも何らかの政治的判断があった のではないかと私的には勘ぐらざるを得ません。それでも 一度国会で答弁されてしまえばそれは立派な前例 となります。 3権( 立法 、行政、司法)は基本的に 前例踏襲主義の世界 、特に霞が関では「 無謬性の神話 」が根強く、どのような経緯にしろ一度出来てしまった前例を自ら間違いでしたとは言いにくいと思います。そこで登場したのが 「解釈変更」 ではないでしょうか。結果は同じですが、「解釈変更」と言えばニュアンスは非常に前向きになりますし、誰も傷つけませんので、 全てが丸く収まる解決法 と言えます。当時の答弁が苦し紛れの問題先送りだったとすれば、一番の利害関係者は故中曽根氏です。しかしながら彼も先日亡くなられ、その意味では 今回は本来あるべき法解釈(政府による任命権は形式的ではなく実質的なものであるべき)に戻す良い機会(タイミング)だったのかもしれません 。また、故中曽根氏も当時の答弁は仕方なかった、のちの心ある政治家が必ず正してくれると信じていたのではないか、それがたまたま菅総理だった、と私的には思いたいです。

 いずれにしても、今回の問題提起を契機にして、日本学術会議の今後の在り方を徹底的に議論すればよいのではないでしょうか。 諸外国(米英)の同様な機関は政府の資金ではなく、民間からの寄付金等で全額賄われ、名実ともに政府から独立 しているそうです。そもそも、そうであったなら同会議も本件を今回のような騒ぎにする必要もありませんでしたよね。というのが、日本学術会議の問題に関する私の「新解釈」ですが、皆様如何でしょうか?

  また、厚生労働省の受託事業として就職氷河期世代を対象とした短期研修コース事業(40日)の本格研修が10月から始まりました。現在11名がIT検証技術者、システム運用技術者を目指して頑張っています。あらゆるIT系の業種では 「ITスキル」重視 、しかもそれを判断する上で 情報分野の学歴等よりも保有資格を重視 しており、これまでIT業界以外で働いていた方にもチャンス大!と思っております。また、経済産業省の調査(「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」平成29年8月21日)によると、IT産業は従業員のスキルレベルに応じて給与が440万円程度(レベル1)から1000万円以上(レベル6,7)まで上がる 能力次第の職場 です。 中途採用でもその後のスキルアップ次第で昇進・昇給のチャンス があり、「年功」よりも「能力や成果」で給与が決まる傾向は今後も続くと考えられています。さらに、IT関連産業は業種を問わず半数を超える企業が、「 これまでも積極的に採用してきたし、今後も積極的に採用していきたい 」と中途採用に対して積極的です!来年1月から第2クール(定員80名:IT検証技術者40名、システムん用技術者40名)も始まりますので、それに向けて 11月20日【15:00~17:00】に研修修了者の採用気運を醸成するため会員企業様向けにも「IT人材不足対策セミナー」と銘打ち説明会(@CSAJ3階会議室)を開催 するつもりですので是非ご参加いただければ幸いです。

 最後ですが、9月25日に会員感謝の集いを無事開催できました。ホテルオークラに2千人は収容できる宴会場を確保し、300名以上の会員様に集って頂き、久しぶりに心ゆくまで会員同士の交流をして頂き好評を得ました。特に、サプライズゲストで 今注目の平井デジタル担当大臣にお越しいただきご挨拶 を頂けたことは会員の皆様も大満足だったことでしょう。コロナ対策には全力で取り組みました。 ソーシャルディスタンスの確保、手指の消毒、マスク又はフェイスシールドの着用はもちろんのこと、入口での足ふきマット、サーモカメラによる検温、COCOAのインストール、トレース用のQRコードによる入退出管理 などです。ホテルオークラ様も料理の小皿化、お客様への給仕など万全の体制で対応いただきました。この場を借りて改めて御礼申し上げる次第です。その後2週間以上過ぎても保健所等から何も連絡はありませんので既に喪は明けたと判断しております。今回、開催に漕ぎ付けられたのも トップの強いリーダーシップと「自粛もいい加減にしないと経済が死ぬ」という業界全体の危機感 に他ならないと考えます。おそらく、今回のイベントを境に他団体も会員活動の正常化に舵を切り出すのではないかと期待する次第です。

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。

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