「専務のツブヤキ」
~政府専用機の新旧交代と思い出される米国第一主義の本音~

2019年2月15日

CSAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

今年は改元に伴い、偶然ですが政府専用機も新旧交代の時期を迎えます。 今年4月より現在のB747‐400からB777‐300ER に代わるということで、昨年12月に新型機の内部がマスコミに公開されました。ニュース映像で新型機の内部映像を見ながら私もつい昔のことを思い出してしまいました。

 実は、30年近く前になりますが、当時私は通商産業省(当時)から防衛庁装備局航空機課に出向し、そこで海上自衛隊担当の部員(中佐クラス)として働いていました。対潜哨戒機のP―3Cや対潜ヘリのSH-60Jなどの航空機を中心とした装備品の予算要求や保守管理計画などを担当しておりました。その年は人事の慣例(通常2年勤務)で通商産業省に戻ることになっておりワシントン州立大学への留学も決まっていました。今と同じ2月頃だったと記憶していますが、当時の航空機課長に呼ばれ、「ワシントン州立大学に留学が決まっているなら、丁度いい、今度政府専用機の1号機の検収があるから行ってきてくれよ。今度お世話になる留学先の先生にも会えるじゃないか」という感じで言われたと記憶しています。

 ボーイングの本社および工場はワシントン州シアトルにあります。工場は馬鹿デカくて、当時は受注の最盛期だった767の機体が組み立て中で工場の隅々まで並んでいるのをカートで移動しながら見て回りました。当時、日本の航空機工場はどこも歩いて回れる大きさでしたので、日米のスケールの違いにびっくりしました。また、組み立て中の胴体部分の鋼板の厚さが2~3ミリ?しかないように見えて、大きな機体なのにそんなに薄くて本当に強度は大丈夫なのかと心配しましたがもちろんこれは杞憂です。私は、この時、 航空機というのは鉄の塊が飛んでいるのではなく、むしろ風船と同じ だなと思い直した次第です。

 その後、完成した政府専用機の中に入り、一般の記者・随行者席や総理・天皇陛下がお休みになられるお部屋、天皇陛下がお座りになる椅子(玉座)の座り心地など、恐れ多くもこの私が確かめさせて頂き、無事検収を済ませた次第です。新型機の内部映像をニュースで見ましたが、当時の内装と比べると機体が少し小さくなったせいか、会議室の広さなどは狭くなったような気がしますが、新型機の内装や機材の充実ぶりは目に見はるものがありました(さすがに映像だけでは玉座の座り心地までは分かりませんが)。

 また、当時、防衛庁では現在の対地支援戦闘機F-2の日米共同開発に関する交渉も行われており、私も巻き込まれておりました。歴史は繰り返すと申しますが、当時も米国第一主義が幅を利かせていた気がします。もともと、国産であった対地支援戦闘機ですから後継機F-2も国産の予定だったのですが、米国議会の感情的な主張で無理やり日米共同開発にさせられました。当時、「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」なる本も出ていた時代で日本脅威論が米国の支配的な論調でした。つまり、航空機産業を米国の自動車産業のようにしてはいけないということでした。まさに、今の米中関係と瓜二つのように私には思い出される次第です。米国の要求も、当時の私から見れば酷いものに思えました。 米国側から共同開発にしろと要求 されたので、日本側が米国製の戦闘機をベースに共同開発を決めたにもかかわらず、 米国側はなんとベースになった戦闘機の肝心な情報の提供は拒否 する一方で、 日本の民間企業が保有している先端加工技術は無償で米国側に提供 して欲しいという何とも虫のいい要求をしていました。これのどこが共同開発でしょうか?と当時の私は思わざるを得ませんでした。

 日本は米国の核の傘の下で安全保障を頼り切っている訳ですから、どんな理不尽と思える要求でも最後は屈せざるを得ないわけですが、今度の米中貿易交渉はどうなるでしょうか。最初は貿易戦争と言われていましたが、今は安全保障も絡んで太平洋を挟んで世界の覇権争いの様相を呈しています。当然中国は日本と違って米国の一方的な主張は断固跳ねのけるでしょうから、どういう落としどころをトランプ政権は考えているのでしょうか、、、という気がします。いずれにしろ、大統領がトランプであろうがなかろうが、米国第一主義の本音は当時から私にはなんら変わっていないように思えます。

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。

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