「愛と繁栄を実現する経営改革」経営計画の修正は是か非か

2018年7月1日

CSAJ 監事 戦略経営コンサルタント 公認会計士 山田隆明

 事業年度がスタートして何か月か経つと、計画と実績の差異が発生し、”計画を修正すべきかどうか”の議論がどこの会社でも起こる。

 賛否両論あるうち、まず修正すべきでないとする理由は以下のとおり。
 社員が手を抜いたときに、むやみに修正してしまうと社員の手抜きを容認することになるというものだ。社員にとっては、手を抜けばノルマが下がるのだから、どんどん手を抜くようになると。
 またこういう理由もある。
 修正を認めた場合、修正のやり方として、実績に合わせて計画を修正するやり方がよく取られる。
 しかしこれでは計画を立てる意味がない。なんとなれば、計画は実績と必ず一致するのだから、つまるところ計画が無いのと同じ状態、すなわち”成り行き経営”になってしまうのでむやみに修正すべきでないというものだ。

 次に、修正すべきとする理由は以下のとおり。
 A社は、”顧客の要求、自社の強み、ライバルの状況”の三つを「見込み」、社長がそれを数字化して計画を作っている。そして、見込に誤りが見つかれば、すぐに計画修正している。
 経営計画とは社長の「見込み」を数字化したものである。だから当初の見込に誤りが見つかればすぐに修正すべきというものだ。
 逆に、見込誤りを修正せずにあくまで”達成”にこだわると、次のX社のようなハメに陥る。すなわち、X社では新商品がバカ売れして最初の1か月で1年分が売れたが、そのとき社長は「新商品は計画を達成したからもういい。これからは未達の既存商品に力を入れよ」との指示を出した。明らかにナンセンスだ。

 整理すると、社員の手抜きに対しては修正すべきでないが、見込の誤りは修正すべきである。
 では、社員の手抜きかどうかをどうすれば見極められるか、どうすれば手抜きをしなくできるかが実務上問題になる。
 これについて、私は「経営トップの現場回り」にあると考える。
 「社内の現場」を回って自分の目で見て耳で聞いて確かめることだ。
 こう言うと”古臭い昭和の精神論“と反論されそうだが、あのトヨタも「現場」を第一に掲げているではないか。「強さとは『自分で考え、動く現場』を育てることだ」がトヨタのエッセンスだ。

 また、「現場」は社内だけではない。社外の「お客様」もまた現場だ。
 社長は”お客様回り”を欠かしてはならない。なぜなら、社長が行けば相手もそれなりの人が出てきて、その人から”本音の経営の話”を聞ける。
 加えて、社長が自分の目で見て耳で聞くので、「当社の商品はほんとうにお客様の要求に応えているか」を確かめられる。
 だから、”社長のお客様回り”から得られる情報は、”宝の情報”だ。
 こうして集めた貴重な情報があれば、社長はきちんと”見込み”を立てることができるから、自らの手で経営計画を作成し、PDCA管理できるようになる。
 上述したX社は、”お客様回り”を怠り、”自社のこと”しか考えなかったからミスジャッジになったのだ。
 また、社長がこつこつ営業努力する姿を見れば、社員も”手を抜かず、頑張ろう”という気持ちになる。
 これは、先の計画修正要否の議論にもつながる。
 すなわち、「一度決めた計画は何が何でも達成せよ」との”命令”などしなくても、社員がすすんで頑張る社風へと変わっていく。
 ”達成”にこだわる必要がなくなり、”環境変化”に柔軟に対応した「見込み」を立てることができるようになる。ごく稀にそういう会社にお目にかかるが、例外なく優良企業である。


(注)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、当協会の見解を示すものではありません。

筆者略歴

山田 隆明(やまだ たかあき)
山田経営会計事務所 所長
公認会計士・税理士・ITコーディネータ

山田 隆明Twitter

1959年 名古屋市生まれ。東海高校、慶応義塾大学経済学部卒業 。
株式会社インテックで基幹システムの営業を10年勤めた後、公認会計士に。
監査法人勤務を経て、独立会計事務所所長も。
現在:戦略経営コンサルタント、わくわく経営株式会社 代表取締役。
コンサルティング内容:経営戦略・経営計画 (本コラムに書いてきた内容)
2009年9月から一般社団法人コンピュータソフトウェア協会監事。

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